ライトノベリスト、ヘビーノベリスト

二次創作とSSを書くブログだったんですが最近は……。ライトノベルを読む!読むの遅いのなんとかしたい!

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ハチクジロマンチスト4


 翌日、準備は整った。僕は朝から昨日の公園で八九寺の出現を待つ。
「来るといいんだけど……」
 待つのは正直つらいものがあった。余計な思考が混じってしまう。決心が揺らいでしまわないように努力する。
 何時間経っただろうか。ずっと長い間ベンチに座っていた気がする。かといって街中を探しに行くことで逢えるとは限らないしなぁ。どうしたものか、これでは戦場ヶ原に合わせる顔がない。
「阿良、阿良々木さんじゃないですか」
「僕の名前を感動詞にしないでくれ、って八九寺!?」
 いつの間にか八九寺は僕の隣に来ていた。
「どうしたんですか? そんなに驚いて」
「そりゃいきなり隣から話しかけられたら驚くだろう」
 それだけではないが。しかし反射神経的につっこみのほうが早かった分つっこみ合格だろう。いかん、脱線するところだ。
「今日はそういう話をしに来たんじゃないんだ。もっと、大事な話」
「大事な話、ですか」
「今日お前暇? 暇じゃなくとも僕は無理矢理連れていこうと思ってるけど」
「いつになく強引ですね。なんでしょう」
 僕の真剣さを感じ取ってくれたようだ。八九寺のそういうところが良い。
「今日は八九寺を、母親に逢わせます」
「…………」
 まだよく分かっていないような表情の八九寺の手をとって僕は歩き出す。
「え? え? それって? 阿良々木さんの母上様にわたしが挨拶するんですか? わたしたちついに結婚するんですか?」
 どうやら言葉が足りなかったらしい。
「違う。僕は忍野から八九寺の母親の住所を貰ったんだ。だから八九寺をそこまで連れて行こうと思う」
 八九寺の顔がぱあっと明るくなった。
「本当ですか!? 嬉しいです。わたしお母さんに逢いたいです」
 忍野のお土産。もっともあのちり紙は既に流されてしまったが。この住所は戦場ヶ原が僕に託したものだ。彼女は別れ際に言った、わたしには八九寺ちゃんが視えないから協力はここまでだけれど、あなたには彼女が視えるから。だから頑張りなさい、これはあなたの仕事だから、と。
 僕たちは駅に到着し、ホームで電車の到着を待つ。八九寺は終始無言だった。沈黙が重い。
 こうしていると精神が押し潰されそうだ。
「母親に逢えるといいな」
「……はい、阿良々木さん。ありがとうございます」
 いつになく真面目な八九寺。言葉を噛んでくれたらどれだけ救われたか。でも八九寺は噛んでくれない。まるで、いつもの僕たちの関係がもう終わってしまったかのようだ。
 終わってしまうのか……。楽しかった日々の終わり。
 電車がホームに迫る。沈黙をかき消すように鉄の音が響き渡る。轟音の中で、僕は確かに八九寺の声を聞いた。
「阿良々木さんは、それでいいんですか?」
 それはくしくも戦場ヶ原と同じ言葉。八九寺の表情は見ない。
 ドアが開き僕は中に足を踏み入れる。八九寺はホームに残ったまま動かない。二人の視線がぶつかる。彼女は真一文字に口を結んでいまにも泣き出しそうな表情をしていた。それでいいんですか? 目がそう訴えかけていた。
 長い長い数秒間の後、僕は彼女に答えを告げる。
「当たり前だ」
「え?」

「僕は、蝸牛の迷子を助けるために出逢ったんだよ」

 そう言って僕は八九寺を引き入れた。



「阿良々木さんはとっくに覚悟してたんですね」
 八九寺はおかしそうに語る。車内に人は数えるほどしかいない。電車の走行音がリズムを刻む。
「わたし迷ってしまいました。阿良々木さんの話を聞いて、心が迷ってしまいました」
「迷ってなんかいないよ。いつだってお前は母親を探していたじゃないか。地縛霊から浮遊霊に昇格したのも、僕らの住んでいる町には母親がいない可能性が高くなったからだろ?」
 だから広範囲を動ける浮遊霊にまでなった。そこまでした。
「いいえ、迷っています。確かにわたしはお母さんを捜し求めていました。そのために浮遊霊にもなりました。でもそれ以上に、今の生活が心地よかった」
 八九寺の表情は柔らかい。今にでも消えてしまいそうなほどだ。
「阿良々木さん。あなたのおかげです」
「やめてくれ……」
 そんな言葉をかけられるほど、何かをしてあげられたわけじゃない。それになにより、これ以上耐えられそうにない。
「……正直に言うと、僕は八九寺と別れたくないんだ」
 言ってしまった。八九寺を困らせるだけなのは明白なのに……。でも僕がこう思っていることもまた、事実だった。
「なら……」
 八九寺は自然に言う。

「阿良々木さん、わたしと一緒に、死んでくれますか?」

 その言葉は、僕の心を揺さぶる。
「それは…………」
 ふふっと笑ってごまかす八九寺。
「冗談ですよ。だってわたしはもう――――死んでいるんです――――」
 それは違う。
「そうかもしれないけど、八九寺は、お前は、ここにいるじゃないか。こうやって僕と話してる、だからお前は生きてはいないかもしれないけど、死んでだっていない」
「わたしは死んだんです!」
 語気が荒い八九寺を見るのは初めてだった。
「十年前の交通事故で」
 隣に座っている八九寺の表情が見えない。顔を伏せてしまった。
「阿良々木さんが出逢ってきた人々と、わたしには決定的な違いがあります。それはみなさんは生きていて、わたしはもう死んでいるということ」
 八九寺だけが、仲間外れ。八九寺だけが、本来はいない存在。生きていない存在。
 僕には八九寺がわざと僕を拒絶しているように見えた。別れが少しでも辛くないように。まるで自分に言い聞かせるように。自分はここにいてはいけない存在なのだと。

 話しかけないでください、あなたのことが嫌いです。

 僕はその言葉を思い出していた。あのときは、ついてきて欲しくない気持ちからそう言っていた。今度の言葉は未練を断つため。僕が別れたくないと言ったのを聞いて、八九寺は僕を説得しようとしている。
 情けなかった。でも僕は……その拒絶が嘘だと、教えてあげなければいけない。
「なら、八九寺」
「なんですか」

「お前は、僕と出逢ったこと、後悔しているか?」

「そんなわけ……」
 
「ないじゃないですか……」

 卑怯ですね。阿良々木さんは、大人げないですよ。八九寺はそう言って本音を話してくれた。
「わたしは阿良々木さんが大好きですし、他のみなさんも大好きです。みんな、みんなわたしの大切なお友達です」
「ああ、八九寺は大切な友達だ」
「だからみなさんと別れるのがとても辛いです。お母さんに会ったら、わたしは恐らく消えてしまうでしょう。正直怖いです。それでもわたしはお母さんに逢いたいと思っています」
「わかった」
「でも、これだけは言えます」
 車窓から差し込む光が彼女をつつむ。

「わたしは、阿良々木さんと逢えて良かったです」



 電車が目的の駅に着く。僕たちは目的地を目指して歩いた。
 あまり大きな街ではなく、少し歩くとすぐに田園風景が広がった。青い田んぼの脇を進む。
 やがて一軒の家に辿り着く。そこには綱手の表札。僕たちは八九寺の母親の所まで来た。もう、引き返すことはできない。
「いくぞ」
「はい」
 インターホンを押す。その指は震えていた。
「……………………」
「……………………」
「いない、みたいだな」
「留守、ですか」
「裏に回ってみよう」
 裏に行くと、人がいた。40~50歳くらいの女性。帽子をかぶって家庭菜園をしている様だった。
「八九寺、あの人、お母さ……」
 僕はあの人で合っているのか確かめようとした。しかしその必要はなかったようだ。八九寺は既に泣いていた。
「お母さん……お母さん……」
 十年ぶりの再会。八九寺は十年という長い歳月、今日のこの瞬間のためにこの世にいた。毎日毎日、母親を捜していたのだろうか。それは想像できないほどとても長かったはずだ。ようやく、ようやく願いを叶えることができた。
 太陽がまぶしい。目がくらんだ。光輝く庭を、八九寺は走り出す。
 ああ、行ってしまう。
 終わってしまう。
 最後に…………最後に、
「八九寺!」
 ぴたりと止まる八九寺。おそらくわかっているのだろう。振り返らない。
「――――――ありがとう――」
「はい、こちらこそ」
「――大好きだ――」
「はい……」
 振り返った八九寺の顔はぐしゃぐしゃだったけれど、その笑顔は僕が今までみた中で間違いなく一番だった。

 そして彼女は、光の中に、消えていった。


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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

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