ライトノベリスト、ヘビーノベリスト

二次創作とSSを書くブログだったんですが最近は……。ライトノベルを読む!読むの遅いのなんとかしたい!

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オリジナルSS 『めっ!!』 第一話

 よだれも凍る12月。雪こそ降ってはいなかったが、最低気温は氷点下に迫る勢いらしい。氷点下だろうがそうでなかろうがさみいもんはさみいのであり、また体の感覚として大して変わらないだろう。外で活動している人には大変申し訳ないことに、俺は大学で講義を受けていた。前方では教授がもごもごと下を向いて教科書を読み念仏を唱えていて、後方では第23回モン○ン大会が開催されているようだった。単位のために出席してはいるが正直眠いと言わざるを得ない。というか眠い。ちょっとさっき意識とんだ。
 横に視線をずらすと幼なじみがいそいそとノートを取っている。ちら、ちら、とこっちを見て微かに赤くなったり、かと思えば首を振って教授を睨みつけることを繰り返す。なんというか小動物をみているようで微笑ましい光景だったが、ここでもし微笑んでもしてどん引きでもされたら嫌なので放っておくことにする。
 幼なじみは一生懸命に耳を傾けていたが、それはそれ、こっちは出席さえ取れればそれでいいのでお構いなしに寝させてもらおう。睡眠学習とは誰が言ったのかよく聞く言葉だが利用しない手はない。幸い授業時間はまだ一時間程残されていた。
 腕を枕に、暖かい空気を布団に、教室と別れを告げて夢の世界へと旅立つことにした。

                              ◆

 体を揺すられて目が覚める。心地よい朝の寝覚め。というわけにはいかなかったようだ。
「あ、頭いてぇ……」
 教室で寝ると脳の血行に良くないのかな。
「授業終わったわよ」
「んぁ……」
「ほら、よだれ垂らしてないで。まったく、いつまでも寝てるんだから」
「ああ……すまん……」
 気がつけば口を半開きし幼なじみによだれをハンカチで拭いてもらっていた。小さい頃から彼女は細かいところに気を配る良い子として近所では評判だった。
「…………」
 幼なじみはそのハンカチを持った手をじっと見つめ続けること数秒。ぎくしゃくとした動きでそれをポケットにつっこんだ。
「それ、洗って返すよ?」
「っ!?」
 ぎょっとした、みたいだった。
「いいいいのよいいのよ。そんなことくらい私がするから。あんたは気にせずよだれ垂らしてなさい」
「いや、そんな犬みたいな扱いされても……」
 犬、という言葉を聞いて、ふふーん、といったドヤ顔になる幼なじみ。見た感じあんまりいいことは考えていない様子。そして彼女は言った。
「お手!」
 笑顔でそんな命令が下る。差し出された手。そういえば何年もさわっていない気がした。ふむ。
「…………」
 ぎゅ。
 手を握ってやった。思ったよりやわい。
「ふぅぁ!?」
 何故か幼なじみがびびっていた。
「えっ」
 そんなにびっくりされるとは……。しかし俺は手を離さない。
「あぁうぃあゃー!」
 言葉にならない叫びをあげて、俺の手を振りほどくと座ったまま地面を蹴りとばした。
 それがどんな事態に繋がるかというと、即ちびっくりしすぎてイスごと後ろにひっくり返る。危ない、と思った時にはすでに遅かった。
「おい、大丈夫かよ!?」
 見ればわかる。大丈夫じゃない。
「う゛……お……」
 地獄の底のうめき声みたいなのが聞こえる。
 後頭部を思い切り強打していた。めっちゃ痛そうなんですけど……。彼女は頭を抱えてうずくまってしまった。
「しっかりしろ! 病院連れてくか?」
「……だ、大丈夫……です……」
 しばらく苦悶の表情(般若)だった幼なじみだったが、しばらくすると痛みも引いてきたようだった。
 よろよろと机に掴まって立ち上がる。頭から血は出ていないみたいだ。しかし彼女のダメージが大きいことには変わりない。
「とても大丈夫そうには見えないぞ」
「あ、ありがとうございます。でももう大丈夫ですから……」
「その口調が既に大丈夫でないことを証明しちゃってるんだが……」
 今まで彼女が俺に敬語なんて使ったことは殆ど無い、と思う。自信が持てないところが情けないことだが。
「すみません。一つ聞いてもいいですか?」
 いやに畏まって尋ねられるとこっちもタメ口を利きづらくなるからやめて欲しい。あれ、さっきまで友達だったよね? もう友達じゃないとかそんなノリじゃないですよね?
「なに?」
「わたしは誰ですか?」
「は?」
 はっきり言ってベタな展開だったと言わざるを得ないだろう。悪い冗談はレポートだけにしてくれ。な?

                              ◆

 そのままにして置くわけにもいかず、俺は幼なじみを家に連れ帰ってきた。というかよくよく考えてみたらその行為自体に問題があるような気がするんだが、とりあえず誰かに相談しようということでメイドさんを頼りにしたのだ。記憶のない彼女を連れ込むのはかなり気が引けたのだが、意外にもすんなりついてきてくれた。授業はサボってきたがまだ出席に余裕があるからそっちはなんとかなるだろう。問題は幼なじみである。
「……というわけなんだよ。メイドさんも記憶を思い出させるのに協力してくれないかな」
 お茶を出してくれたメイドさんに事情を説明する。彼女は幼なじみを観察して言った。
「確かにいつもの猛獣のような勢いがないですね」
「猛獣て……」
 確かにいつになく静かな空間になってますが。
「わたしはいつもそんなに元気があるんですか?」
 本人はこんな状態だし。元気どころかもはや大和撫子の風格を漂わせている。キャラ変わりすぎだろ。正座もきちんとしてるし。言っても崩そうとしないし。
「元気だよ、って言うとなんか変だけど、活発で体育系な娘だよ」
「そうなんですか~」
 こんなにおしとやかな幼なじみは見たことがなかった。正直いつもの幼なじみにはない魅力があるように思える。
「ご主人様。頭を打ったなら病院に連れていった方がいいんじゃないですか?」
「う、まあ、そうなんだけど……」
 ぐうの音も出ない。至極真っ当な意見。頭を打ったなら脳神経外科とかだろうか。しかし、それには大きな問題が一つあった。
「でもさ。病院に行きたがらないんだよ」
 幼なじみの方を見遣ると、拒絶の意が感じられる。
「わたし、病院には行きません」
 ツンとした返答があった。
「どうして行きたがらないんです?」
「それは私にもわからないんです。でもとにかく病院に行くくらいならこのままでいいです」
「多分だな。メイドさん。記憶が無くなる前の嫌いなイメージが残ってるんだと思う」
「というと?」
 本人の目の前で言うのもアレかと思い、俺はメイドさんの耳元で幼なじみに聞こえないように言った。しかし正直あんまり効果無いんじゃないかと思う。
「うん。多分あいつは注射器がダメなんだと思う。小さい頃からそうだったし。だから病院全体に苦手意識が波及したんだと思うわけ」
 小さいころ予防注射をして以来、彼女は大の注射嫌いになってしまった記憶がある。恐らくはそれが根本的な原因。
「ぷぷっ」
 メイドさんが吹き出した。
「可愛いところありますね。わたしなんて大好きですよ」
「それはそれで問題あるだろ……」
 とりあえず後でクソジジイをとっちめておくことにしよう。
「この部屋に見覚えとかない? 何度も来てると思うんだけど」
「私、男の人の部屋にそんなにお邪魔してるんですか!?」
「いや、……ん、まあ……」
 なんだろうこの罪悪感は。決して俺が無理矢理引き入れていたわけじゃないのに、何故か後ろめたいような気持ちになるぞ。はて、何故だろうか。くっそ、梯子使ってまで上ってくるような奴に……。
「あの……」
「なに?」
 幼なじみはもぞもぞしながら、うつむいて言った。
「その、それで、何かされるんですか?」
「え?」
「な、何もないですよね? 幼なじみだって言ってましたし」
 すかさずメイドさんが割って入る。
「それはもうすごいですよ。ご主人様は町内を代表するすけこましですから」
 メイドさんが虚偽の報告をしている。このままでは俺の立場が非常に危ういものになる気がする!
「待てぃ! 何にもしてないぞ! 誤解を招くことを言うな!」
 しかも町内って範囲せまっ!
「わたしもロボットですが夜中はあんなことやこんなことを……」
 メイドさんは自慢げにそう語る。
「あんなこと……こんなこと……」
 さっそく幼なじみに悪影響が現れ始めた。
「プレステかWiiiばっかりやってんぞ!」
「失礼しました。ご主人様は日本を代表するチキンでしたね」
「それはそれで嫌だなおい!!」
 ワールドカップに出れるレベル!?
「失礼しました。ご主人様は日本を代表するチェッケンでしたね」
「言い方本場っぽく変えただけじゃねえか!!」
「あのー。それで、私はいつもここで何をしているんですか?」
 幼なじみが軌道修正してくれた。ありがとう幼なじみよ。あのままだと突っ込みが泥沼化しているところだったぜ。危ないなー。で、誰のせいだったか考えてみるとメイドさんの割り込みから始まったわけで、本当に連れてきて正解だったのかなぁと今更ながらに不安になってきた。
「そうだなぁ。料理を作ってくれたりゲームしたりしてるかな。遊びに来てるって思ってくれていいよ」
 メイドさんが幼なじみに耳打ちした。
「大人の遊びです」
「ぇっ?」
「あんたは邪魔すんな!」
 聞こえてんぞ!
 話がさっぱり進まなかった。あと、「大人の」が付いてればエロくなるとか思ってんじゃねえぞ!
「そんな……」
 メイドさん……しゃべらないと死にそうだった。
「わたしにも出番を……ぶわっ」
「泣いてもダメ!」
 てか泣いてないし。
「ぶぅわっっ!? ぶぅわっっ!?」
「なにがあった……」
「いえ、ストⅡの負けSEっぽく泣く練習をしてました」
「そうすか……」いったい練習して何の役に立つんだろう。
 本人は楽しそうだからいいか……。
「ぶぅわっっ!? ぶぅわっっ!? ぶぅわっっ!? ぶぅわっっ!?」
 うるせえ……。
「でもこの部屋はなんか懐かしい感じがします。まるで何年も見ていたかのよう」
 俺半年ちょっとしか住んでないけど……。
「ちょっと色々見てもいいですか」
「いいよ」
 幼なじみは立ち上がると台所やベランダなどを見た。そして押入の前までやってくる。
「開けてもいいよ」
「ありがとうございます」
 押入をあけるのに感謝されるのもなんだか変な気分だったが、このぎくしゃくした関係を終わらせるためにも彼女には元に戻ってもらわねばなるまい。
 彼女は押入に手をかけた。立て付けがよくないのでガタガタと音を立ててあけることになる。開いた先にあるのは只の布団コーナー。
「ここの天井。開きますよね」
「開くんだっけ?」
「開きますよ。押入で寝ている私が言うんですから間違いありません」
 その答えに幼なじみはきょとんとした。あ、これはくるな……と思った。メイドさんを少し睨んでおく………………なぜ頬を赤らめる。
「え、同棲しているんですか……?」
「ええ、うん、まあ、結果的には……そうなっているけども……」
 予測したくせに何とも歯切れの悪い応答になってしまっているが仕方がない。そこいらへんの事情を知りたければもう一回『!』の一話から読み返せ! と言いたいところであったが、そんなメタな発言をまさかするわけにもいかない。うん。俺も常識あるし。
「メイドさんはロボットで住み込みで働いてもらっているんだよ」
「えぇ、ロボットだったんですか?」
 はっ、としてメイドさんが深刻な顔をした。
「ご主人様、そういえば幼なじみには私がロボットであることをまだ説明しているシーンがありませんよ」
「えぇ!? そんな抜けがあったの!? マジで!?」
 メッタメタだった!
「実はね。彼女はうちのクソジジイが開発したロボットだったんだよ!」
 じゃじゃーん! 彼女にとって新たに発見された新事実であった。
「それはそれは。でもよくできてますねー。スイッチとかあるんですか?」
 あっさりとした反応だった。
 世の中そんなもんである。
「……ああ、それなら背中にあるよ」
 メイドさんが目を丸くした。
「その設定生きてたんですか!?」
「設定とか言うな!」
 メイドさんがわなわなしていた。幼なじみはどうやら興味を示したようである。メイドさんを凝視して言った。
「わぁ。押してみてもいいですか?」
「いいよ」
「ダメダメダメダメっ! ダメです! っていうか「わぁ。」とか可愛い娘ぶってなに恐ろしいこと言ってんですか!」
「でも幼なじみも押したいって言ってることだし」
「ダメです」
「俺も試してみたんだけど」
「ダメです。押したら大変なことになりますよ?」
「というと?」
「ご主人様の心臓が止まります」
「スイッチを押すとき!?」
 読んだことはない。
 しかし、どうにもメイドさんはスイッチを押させたくないようだった。今はスイッチよりも幼なじみの記憶をなんとかしなければならない。
「でも、ロボットで押入で寝てるなんてまるでドラ○もん……」
「「そのネタはもう使った!!」」
 どうにも話が進まなかった。

                              ◆

「よいしょ」
 幼なじみが押入の天井を開ける。あれ、埃が落ちてこない。
「ねずみとか大丈夫かな」
 戦前から生き残っている貴重な建物である。その老朽化は甚だしいだろう。補修工事をしてもらいたい。魔改造とかいらないから。
「大丈夫ですよ。わたしがきちんと掃除してますから。最初は目も当てられない状態でしたが」
「だろうな」
 メイドさんが屋根裏まで掃除していることに感心。
 そんな会話をメイドさんとしている間に幼なじみの体はぬっ、と天井に吸い込まれていった。まるでホラーみたいな言い回しだが、実際そうなのだ。実にスムーズに入っていった。
「わぁ。とても懐かしい感じがします。懐中電灯とかありますか?」
「ほらよ」
 天井から伸びてきた手に渡してやる。とてもシュールな光景だ。
「部屋よりもむしろこっちの方が懐かしい感じです。なにか思い出せそうです」
「お、おう。何か思い出してくれ」
 なんでそっちの方が懐かしいんだ、とは聞けなかった。チェッケンだからだ。
「あ、右にあるAT-4とAK-47は気にしないでください」
「何か恐ろしいワードがメイドさんから聞こえてきたんですけど!?」
 この娘はいつの間にそんなものを仕入れてたんだろう。まあ深くは考えまい。
「いやー、FPS面白いですねー」
「その影響なのっ!?」
 深く考えてしまった!
 恐ろしきゲーム脳。そのうちメイドオブデューティーとかリアルでやりそうだから怖い。真っ先に標的にされそうだ。
「屋根裏結構広いですね」
 幼なじみの声が聞こえる。姿は見えないが。
「あ、どうもー」
「こんにちは」

 !?

 何があった。屋根裏!?
「どうですか?」
「いやぁ、あんまり見えないです」
「あ、そっちに新しく穴開けた気がします。気がするだけですけど」
 ガタゴトガタゴト。
「これはいい感じですね」
「よく見えますか?」
「はい。ありがとう」
「いえいえ、私今記憶喪失みたいでよく思い出せないんですけどここには多くの思い出があるように思えます」
「ならきっと常連ですね」
「そうかもしれません。あ、そろそろ降りますね」
「そうですか。ではまた機会があれば」
「はい。それでは~」
 ガタガタ。
「よいしょっと」
 幼なじみ。帰還。
「「機会があれば」じゃねえよ!?」
 くそぉ、どのタイミングでつっこめばいいのかよくわからなかったぜ……。あの声はおそらくというか間違いなくお隣さんだ。今度からは天井にも注意しなければ……。
 悔しがっている俺に、メイドさんはきらきらと目を輝かせて言った。
「クレイモア、設置しておきましょうか?」
「FPSはもういいから!!」

                              ◆

「それで、なんか思い出せた?」
「天井の穴の位置は思い出しました」
「いらねぇ!」
 どうにも失敗だったようだ。
 しかし困った。何とかして思い出させてあげたいのだが、どうすればいいだろうか。
「ご主人様。何とかして幼なじみの記憶を戻してあげたいんですね」
「そうなんだよ。このままじゃまずいよ」
 すると、メイドさんはじっと俺のことを見つめて指摘する。
「まあ話を聞く限りご主人様が彼女の記憶を奪ったに等しいですからね」
「うぐ……それは確かにそうだ」
「彼女の今までの人生を全て奪ったんですよね」
「うぐぐ……申し訳ないと思ってる」
 土下座するしかないか。そう思った時、幼なじみが声をかけてくれた。
「私は全然気にしてないですから。そんなに落ち込まないでください」
 幼なじみは俺の肩に手をかけようとした。するとメイドさんがすかさず反応する。
「待った!」
「え?」と、驚いたのは勿論幼なじみ。何が起きているのか俺には理解できなかった。
「あなたが記憶喪失になってしまったのは、元はといえばご主人様があなたに触れたことが原因でした。それを考えるとご主人様は謝罪としてあなたと今後一切触れることを禁じられるのが妥当なのではないかと思います」
 確かに、俺には何らかの罰が下るべきなのかもしれない。そうすることで幼なじみの為になるのなら……。
「それは嫌です」
 メイドさんに対して幼なじみは確かな口調で拒絶した。
「ほぅ……」
「私は記憶をなくしたことを彼のせいにはしません。私が勝手に頭を打ったんですからそれは記憶を失う前の私のせいです」
「しかし事実関係を整理するならあなたはご主人様との接触がなければ記憶を失うことはなかったはずです」
「それはそうだと思いますが……」
「ならそれはご主人様に責任があるということでしょう? なら、けじめをつけなければなりません。私はご主人様のメイドです。しかし同時に教育もまた、私の責務なのです。これはあなただけの問題ではないのですよ」
「そんなことはないわ。わたしはそんなことさせない」

「……いい加減、
 偽善者の振りをするのはやめたらどうです?」

 なんか突然のシリアスきたーー。
「……どういうことですか」
「あなたは記憶を失わされたことを恨んでいるんでしょう」
 幼なじみはゆっくりと言った。
「いいえ」
「本当に? 少しも恨んでいないなんて言うことができますか? 現にあなたは被害を受けている。これからどうしたらいいのかもわからない。今日はなんとかなっても、明日はなんとかならないかもしれない。そんな現状に追いやったのは彼なんですよ。あなたの過去を全て奪い去ったのが彼なんですよ。それでも、全く、微塵も恨んでいないなんて言えるんですか?」
「…………」
「言えるわけがない。でもあなたはご主人様が可哀想だから、ただそれだけの理由で笑って許している。それが本当の気持ちなわけがない」
「…………」
「その沈黙が、あなたの答えです。人間なら恨むのが正しい。誰だって憤るでしょうね。恨まないのは偽善者ですよ」
「だから、彼と、今後触れるなということですか」
「接触だけでなく会わないことが必要かもしれませんね。それが彼に反省させる一番の方法でしょう。当面のね」
「……よく、わかりました」
「そうですか」
「わたしは……彼がいなくては生きていけないことが、よくわかりました」
 幼なじみはゆっくりと立ち上がった。そして、俺の方を向くと言った。
 俺は展開にまったくついていけなかった。
「彼と離れることを、少しだけ想像してみたんです。そしたら、それだけで胸が苦しくなりました。恐らく、記憶を失う前の私の気持ちが漏れてきてるんです。その漏れた分だけでこんなに苦しいなら、離れてしまったらどうなるんだろう? そんなことを思うだけでも辛いんですよ? 離れられるわけ、ないじゃないですか」
 メイドさんが驚いたように反論した。
「これからどうするつもりですか。彼がこんな事態に追い込んだんですよ? 恨みの気持ちはどうあがいても生まれるはずです!」
「だったら、忘れればいいんですよ」
「は?」
「恨みの気持ちが全くないかというと、それは嘘です。メイドさんの言うとおりです。でもそんなものは忘れればいい。今までの記憶を忘れられたんですから、それくらい簡単ですよ。それに私、ノートを見た限りだとあんまり成績もよくなさそうだし、忘れるのは得意なんじゃないかなと思います」
 幼なじみは、改めてメイドさんに向き合って言った。
「だから私は記憶が無くても彼と離れるのはイヤ。触れられないのもイヤです」
 なんか遠回しに真正面から告られてる気がするのは俺だけか。
「…………わかりました。あなたがそう言うのでしたら、私も認めましょう」
 どうやら二人の問答は終わりを迎えたようだった。でもメイドさんはものっそい悔しそうだった。まるで俺と幼なじみを離れさせるのに失敗したかのような顔だ。
「さて、日も暮れてきたことですし、そろそろ解散するのがいいのでは?」
 誰も話さない空気を読みとってかメイドさんがそんな提案をした。幼なじみの両親も心配するかもしれない。というかぶっちゃけこんなことが露見した日には俺はどうなるかわかったのものではないのだが、それでも彼女を帰さないわけにもいかないだろう。
「そうだな。あんまり無理に思ひ出そうとしてもよくないかもしれないし。帰るなら送るよ」
 彼女の両親には事情を説明するしかあるまい。そう思っていた矢先、彼女の口から意外な言葉が漏れた。
「いいえ、大丈夫です」
「家の場所は覚えてるの?」
 彼女は自分で帰れるのか、そういえばここに至るまで考えていなかった。彼女が自分の家の場所を覚えていないことは可能性として十分にある。
「いいえ、そうではなく」
「?」
 そうではなく?
「泊まっていきます」

「!?」

 なに言ってんだこいつ!?
「言ったじゃないですか。離れるのは嫌だって。メイドさんも了承してくれましたし、問題はないはずですよ?」
「うわあああああああああああああ」
 俺は思った。メイドさん墓穴ほったな、と。
 メイドさんが完全にヒスっていた。ドタドタと暴れ回る。おもちゃ買って欲しくて駄々こねる子どもみたいだった。
「ちょ、メイドさん落ち着いて!」
「うわあああああああああ」
 急いで立ち上がり、畳をひっくり返そうとするメイドさん。
「あ、畳の裏にあったグロックは処分しておきました」
「うわあああああああ」
 メイドさん完全敗北だった。こいつできる……。
「さて、夕飯はわたしに任せてください」
 その上仕事まで奪う幼なじみ。
「冷蔵庫には、っと……なんか独身男性の冷蔵庫みたいですねぇ」
 その上ふるぼっこ。
「わたし買ってきます。来る途中にありましたよね。スーパー」
 幼なじみが場を圧倒していた。俺も反撃の手段が見つからなかった。
「あ、うん。そこ南にまっすぐ行けばスーパーだよ」
「わかりました。それじゃあ行ってきまーす」
「い、いってらっしゃい……」
 ガチャ。タンタンタン……。
 どうやら一旦嵐は去った模様。
「……………………」
「……………………」
 あー、これはメイドさん拗ねたなー。どうにもこうにも部屋の隅で三角座りしてのののののって書いてるし……。
「もう、いいんだぁ……。わたし……必要とされてないんだぁ……」
 とりあえず幼なじみは出かけたけれど、いったいどうなるのか俺にも予想がつかなかった。

続く



なんだかんだで9000字。

なんとかうp。約一年ぶりの『めっ!』ということでけいおん!っぽくエクスクラメーションマーク増やせばいいんじゃない? という安易な発想のもと誕生しました。『めっ!!』ですw

続きます。というか収拾がつかなくなったと言ったほうが正しいw

少しでも笑ってくれれば嬉しい限り。それだけを頼みに書いております。ダメそうなら新しいSSを考えるか。。。

後編に取り掛かるのはレポート片付けてからです(汗)

それでは。


あれから一年も経ったのか……。
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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